目的
第2回の研究では日本未上陸のビジネスモデルや戦略をもった海外キュレーションメディアを数社リサーチし、日本で運営した場合の成功の可能性を検証する。特に新しいマネタイズ手法に注目して、オプティマイザーで応用する場合の注意点や成功ポイントも述べる。
前回の振り返り
第1回の研究においては、日本におけるキュレーションメディア台頭の背景に始まり、海外キュレーションメディアとの違いや傾向を分析した。結果、日本と海外のキュレーションメディアの戦略はバーティカル展開とホライズタル展開であることがわかった。そして、マネタイズ手法をふまえつつ、今後マネタイズできるキュレーションメディアのポイントを3つ挙げて結びとした。しかし、前回の反省として海外の分析がやや簡単であった。今回は海外キュレーションメディアに関して深掘りしたリサーチを行い、ビジネスモデルやマネタイズの手法なども紹介する。それを日本で運営した場合の成功の可能性、さらにはオプティマイザーでの応用を検証する。
本題
はじめに
第1回の研究において海外キュレーションメディアはホライズタルなメディアとわかった。独自アルゴリズムによる記事のパーソナライズ化をし、SNSなどと連携して拡散を促している。これは「バイラルメディア」とも言われている。 それでは、具体的に海外ではどんなキュレーションメディアが人気であるのか?それはどんな戦略をとっているのか?次は現在人気の海外キュレーションメディア2サイトの事例研究をする。
海外キュレーションメディアの事例研究
BuzzFeed
※2016年1月19日より日本版サイト公開
2006年に設立されたオンラインキュレーションメディアである「BuzzFeed」は2015年8月のコムキャストグループのNBCユニバーサルから2億ドルの増資を受け、現在急成長中のキュレーションメディアである。創設したのは、「ハフィントン・ポスト」の創設も手がけたジョナ・ペレッティ氏とケネス・レーラー氏のコンビである。多くのオンラインメディアがマネタイズに苦しむなか、BuzzFeedはソーシャル拡散力を収益化に活かしている。その肝はネイティブアド広告で、2014年時点で年間130億円の収益を上げている。
BuzzFeedの調査研究シニアディレクター、タミ・ダレイ氏はネイティブアドの投資利益率(ROI)は極めて高いと述べている。トヨタ自動車・カローラのネイティブアドは、本サイトに短文と動画というシンプルな組み合わせで掲載され、2週間で100万PVに達している。
BuzzFeedは広告代理店に似ている。独自にネイティブアドの出稿を受け付け、それを製作部門が製作し、得意のバイラルで広い視聴者にリーチさせている。メディアバイイングの必要はなく、すべてワンストップサービスとしている。英支社では全従業員の3分の1にあたる50人がエージェンシーの役割を担っているという。
「エージェンシー機能が組み込まれた」モデルについて、「The Economist」のトム・スタンリッジ氏は「新しいモデル」と指摘し、次のように述べている
「『BuzzFeed』と『Vice』は報道機関を装った、エージェンシーのように見える。彼らは報道機関のように見えるが、実際にはニュースで読者からの信頼と、広告代理店へのパイプを担保している。まさに新しい獣だ」
また、BuzzFeedは「リアクションボタン」と「クイズ/質問」による独自コンテンツの生成している。単なる情報取得、読み物としてのメディアではなくコンテンツに対するユーザー参加を促す面白い仕掛けを施している。Facebookがいいね!のみであるのに対して、複数の感情ボタンを示すことで、どんなコンテンツがアクションされ共有されるコンテンツにはどんな傾向があるかを分析することができる。クイズコンテンツはユーザーの反応も良くFacebookへの共有トップ10のほとんどを構成するときもある。
【リアクションボタンとクイズ/質問(赤枠)】
【Facebookへの共有コンテンツ トップ10】
そして、最大の特徴は独自に開発した解析ツール「Pound」によるシェアの構造把握である。Pound導入の結果、BuzzFeedは創業以来絶えず収集してきたコンテンツ最適化のためのデータ量よりも多量のPoundデータを、たった1カ月で蓄積した。そして、彼らはある結論に至った。
Pound開発者であるダオ・グエン氏と、エンジニアのアンドリュー&アダム・ケラハー兄弟はシェアに至るまでの経路と、シェアに影響されている人々の「つながり」に着目した。(下図参照)それまで共有の「つながり」は、個々のサービスごとにシェアされる、一本の樹木のような構造をしていると想定されていたが(左)、実際にはそれぞれのサービスが有機的に絡み合った、森林のような形をしている(右)要するにシェアの構造は複雑というわけである。
【シェアの構造】
また、FacebookやTwitterなどのSNSは拡散における役割が違うということである。「シェア」に注目すると、Facebookが他のSNSに数で勝る。日本でも話題になったBuzzFeedの記事「What Colors Are This Dress?(この生地は何色に見える?)」の分析では、「BuzzFeed」公式Facebookアカウントの投稿からは、直接的に約860万ビューがもたらされた。しかし、下図はその拡散状況を示したネットワーク図で、Facebook投稿からの拡散は、Facebook内で完結されることが多く、他のサービスに飛び火することが少ないのである。
【Facebook投稿起点の拡散ネットワーク図】
※濃い青=Facebook、薄い青=Twitter、白=ブログ、ニュースサイトなどソーシャル外
一方、Twitterは異なる。公式Twitterアカウントの投稿から直接的にもたらされたのは、約97万5,000ビュー。しかし、上図のTwitter投稿を起点にした拡散ネットワーク図からは、Twitterには他のプラットフォームへ情報を伝播させる作用があることがわかる。公式Twitterアカウント以外のツイートや、Twitter以外のSNSやニュースサイトなどを経由して、さらに98万7,000ビューがもたらされている。
≪考察≫
リサーチを通じて導き出されたBuzzFeedの戦略を3つあげる
①ネイティブ広告による収益
第一回でも述べた通り、ニュースメディアはネイティブ広告と相性が良い。キュレーションメディアと、ネイティブ広告の相互補完による成長は海外でも同じであることがBuzzFeedの収益から説明できる。
②クリエーター>キュレーター
複数のリアクションボタンはユーザーが「何を思い、どのような行動をとるか」をパターン化できる。データをもとにクイズ等を加え、独自コンテンツとして創り出すBuzzFeedはキュレーションといううよりかはクリエイションによるユーザー獲得をしていると言える。
③デジタル的なシェアのメカニズム解析
独自の技術でユーザーのアクションを分析している。それはとても効率的で、ウォールに表示させる各要素の最適化などは行わず、シェアされた過去のデータを基にしたサイトの最適化を日々変化させている。
Upworthy
2012年3月に設立されたリベラル系オンラインニュースサイトである「Upworthy(アップワーシー: UpとWorthy(価値のある)を掛け合わせた造語)」は開設後たった14ヵ月で月間ユニークユーザー数が3000万人を超えたいま最もシェアされているニュースサイトである。
【Upworthyローンチ後の訪問数の変遷 縦軸:月間ユニーク訪問数 横軸:3か月】
【Upworthyローンチ後の訪問数の変遷 縦軸:アメリカの月間ユニーク訪問数 横軸:年】
日本ではまだあまり馴染みがないニュースサイトだが、Upworthyが誇る拡散性・成長スピードは「ハフィントン・ポスト」やソーシャルメディア・ニュースサイト「マッシャブル」をも凌ぐ勢いであり、キュレーションメディアのあり方を考える良い事例である。
Upworthyは通常のニュースキュレーションメディアとは異なり、同性婚、世界の貧困問題など、極めてリベラルで社会的に意義がある情報を伝えることをミッションとしている。また、すでにウェブ上に存在するコンテンツ(主に動画や画像)をキュレーターが丹念に探し出して、それに魅力的なタイトルとリード文を添えて記事を発行している、一風変わったニュースキュレーションメディアである。下図にも示す通りUpworthyの平均スコアは2位を突き放した形で833ポイントのトップとなっており、先に紹介したBuzzFeedは 3位につけている。
【最も多くシェアされたサイトトップ25】
Upworthyはアメリカ最大のリベラル系市民政治団体の1つ「ムーブオン」(MoveOn.org)の元エグゼクティブ・ディレクターであるイーライ・パリサー氏と、社会風刺専門メディア「ジ・オニオン(The Onion)」の元マネージング・エディターであるピーター・キークリー氏(Koechley)の二人により創設された。特にSNSのシェアからの流入で支えられていて、シェアされる度合いがずば抜けている。Similarwebによると、8割弱がSNS経由での流入である。
【Upworthyへの流入経路】
【SNS経由の流入の内訳】
なぜ、ここまでSNS経由の流入でユーザー数を獲得しているのか?二つの理由がある
一つ目はニュースを選ぶスタッフに、必ず25種類の異なるタイトルを作成させ、”magic unicorn box”と呼ぶ内製のクリックテストシステムに入れて、1つに絞りこんでいること。直感的にリンクの先にあるものに興味を持ってもらうためには、魅力的なタイトルによって注目させることが何より必要と考えているからだ。
二つ目は記事もとがヒットするかどうか「見極める力」と「売り込む力」がどこよりも優れていること。あくまでクリエイティブは社員という限られた人数ではなく、地球上のすべての人に委ねている。Upworthyは「磨けば光るダイヤの原石」の磨き担当なのである。
三つ目は徹底的に「共有されるためには」を追求すること。シェア率を高めるために、タイトルを25個書き出すだけでなく、そのデザインでありテンプレートのテストを繰り返す閲覧に対するシェア数(Shares per View)を高めるためのABテストを行っている。特にFacebookを重要視し、ウォールに表示される各要素の最適化を日々行っているが、BuzzFeedと違って地道なトライ&エラーによるシェアの最適化が特徴でもある。
事例として、1本の動画紹介がある。それは癌により余命数ヵ月と宣告された17歳の少年を追ったものである。死に直面しながらも自分で作詞・作曲した歌をレコーディングするなどして、最期まで前向きに生きようとする若者の感動的なストーリーである。動画自体はすでにテレビ番組やニュースサイトで取り上げられていたにもかかわらず、秀逸なタイトルによって、同サイトに1500万人もの訪問者をもたらした。
そのタイトルは、 『This Kid Just Died. What He Left Behind Is Wondtacular.(この若者が先日亡くなった。彼が残したものは素晴らしく、目を見張るものだった)』(”Wondtacular”とはWonderfulとSpectacularを掛け合わせたスラング)である。亡くなった若者がiTuneストアにアップしていたオリジナル曲はランキング1位となった。
≪考察≫
リサーチを通じて導き出されたUpworthyの戦略を3つあげる
①タイトル命
情報過多で埋もれたコンテンツに対して、注目されるタイトル文を創ることは非常に重要である。確かにいくら良い商品でも、知らなければユーザーは興味の持ちようがなく、購買行動などありえない。同じようにキュレーションコンテンツも、ユーザーに認知してもらうためには魅力的なタイトルが必要不可欠ということである。Upworthyはその認知についてSNSに重きを置いて、徹底的に最適化している。
②クリエーター<キュレーター
Upworthyはあくまでキュレーターである。既存のコンテンツを収集・選別・編集・共有する技術を磨いている。感情や共感を与えるものは必ず共有される、それを自社でプロデュースする力が優れている。
③シェアラブル&クリッカブル
「なぜ、シェアされるのか?」、「なぜ、クリックされるのか?」を試行錯誤の繰り返しによって今日ここまでのユーザー数に引き上げている。決して打率が高いわけではない。ただただ数をこなして成功法を確立しているのである。コンテンツの質はシビアなものが多い。
新しいビジネスモデルとマネタイズ手法
分散型メディア
ここまでBuzzFeedとUpworthyの事例を通じて対照的なバイラルなキュレーションメディアの戦略を述べたきたが、Buzzfeedはメディアビジネスの将来を左右する「次の構想」をいだいている。
Buzzfeed編集長であるベン・スミスによると…
「同社のアイデアに、「分散型 BuzzFeed」がある。それは20人ほどのチームが、Tumblr や Instagram、そして SnapChat などの人気のある他のプラットフォームに完全に依存するコンテンツを産出しようというものだ。すべて のBuzzFeed のコンテンツは、他のプラットフォーム上で生きていけるだろうとした。たとえば、Facebook。その当時でも BuzzFeed の主要なトラフィックはそこからきていることを示した。」
つまり、Buzzfeedはもはや自社のWEBサイトを持たず、主要SNSプラットフォーム内にコンテンツを配信するという「自社WEBサイトをなくす」という戦略を考えている。
今までのメディアが自社メディアへの集客にこだわらなくては行けなかった理由は、そこに表示させている広告をユーザーに見てもらうことで収益を発生させていたからである。 このビジネスモデルは本質的には大きく変わることなく、WEBメディア黎明期から現在まで至っている。分散型コンテンツはこの伝統的とも言えるWEBメディアのビジネスモデルを変革するまさに「逆転の発想」である。
現にリファラルによるトラフィック(中心の濃い色の円)は、コンテンツ閲覧者に比べると非常に小さな数字となっている。Buzzfeedのインプレッション数を見るとTwitter上で8億4700万、Pinterestで60億、そしてさらにFacebookでは113億という数字になっている。FacebookやTwitterといったSNSに流れているBuzzfeedのコンテンツを見たユーザーを見た人は、実際にそこからリンクされているBuzzfeedのサイトに訪れるユーザー数に比べて圧倒的に多いことから、自社サイトへのリンクなど貼らず、各外部プラットフォームに最適化されたコンテンツを配信していくということが下図を見れば納得できる。
この発想は収益源がネイティブ広告だからこそ生まれる。ネイティブ広告はどれだけの人の目に触れるかが勝負であって、サイト全体のPVがどれだけか勝るかが指標となる。 それならば、Facebookに自社記事へのリンクを張るのではなく、コンテンツをそのまま配信してしまう方が、より多くのユーザーの目に触れる。という理屈である。「自分のところに呼び込むのではなく、お客様の集まる場所へ自分が出向く」というスタンスではあるが、Buzzfeedの分散型コンテンツ(脱自社サイト化)はあくまで構想であって、未だ実行には至っていない。
分散型メディアのメリット / デメリット
メリット:月に何億PVを獲得しようが自社サイトでないため運用コストが安い。サーバー代もかからなければそのインフラを支えるエンジニアも必要がない。
デメリット:すべてが他社プラットフォームのルール下にある点。例えばFacebookで仮に大きな仕様やアルゴリズムの変更には従わざるを得ない。各プラットフォーム内で勝手に商売はできない。また、SEOによる流入が限りなく見込めなくなるため、コンテンツ毎に勝負をかけることになり消耗戦となる可能性がある。元々の流入メインがSEOであった場合や、SNSでの拡散を見込みにくいコンテンツには向かない。
事例:NowThis
そんな中、Buzzfeedの構想を実践する新興企業は既に存在している。それが「Nowthis」である。
NowThisはおもに1分以内の短い動画ニュースを配信するメディアである。2012年にハフィントンポスト共同創業者のケネス・レラー氏と元ハフィントンポストCEOのエリック・ヒッポー氏らによって立ち上げられた。
下図の通り、Nowthisの自社サイトはこのTOPページが1枚のみで、あとは各ソーシャルプラットフォームへの誘導があるだけである。「ホームページなんて言葉はもう時代遅れだ。ニュースはあなたのいる「そこ」に存在しているんだ」というメッセージが印象的である。
プラットフォーム単位でユーザーの志向やサービス上の制限があるため、例えばヴァインでは6秒、インスタグラムでは15秒と、動画の長さを再編集するし最適化したうえで配信を行っている。ちなみにその反響はFacebookで77万FAN、Twitterで36万フォロワー、Youtubeで14万フォロワー、Instagramで月間500万再生となっている。
ではNowthisはどうやって稼いでいるのか?下図がビジネスモデルとマネタイズを示したものである。
クライアント企業から依頼された動画コンテンツをつくったり、通常の動画コンテンツと親和性の高い広告主の名前をヘッドラインにクレジットすることで収益を上げている。しかし、これはCM制作会社となんら変わりがない。
また、売上シェアはメディア界では珍しいことではない。日本でいうとYahooニュースに対してコンテンツ配信をし、Yahooニュース内でのPVにあわせて収益をバックしてもらうことである。Nowthisのブランドコンテンツ形式が動画という点は、脱自社WEBサイト化を加速させている。どういうことか?ブランド広告を自社サイトに誘引することなく価値を出すためには他社プラットフォームに配信したコンテンツがそれ単体でコンテンツ価値を出さなくてはいけない。従来型の画像+文字のコンテンツでは伝えられる情報量が限られる中、動画がそれが可能にするからである。今、インターネットのトラフィックの6割ぐらいが動画であり、2018年か19年頃には、8割に達すると言われている「動画時代」であることから、時代の流れに乗ったメディア戦略を、NowThisは先行して行っていると言える。
新しいマネタイズ手法は「データ販売モデル」である。まだ、彼らも模索中ではあるがどんなコンテンツが流行るかを常に調査し各プラットフォームデータを保有している強みを活かして、情報に金銭的価値を生み出して提供する思惑がある。「このような動画がこのプラットフォームで、こんなアクションにつながる」といった、あらゆるプラットフォームでのコンテンツの出し方を売る。この収益モデルは今後期待できるかもしれない。
結論
日本での成功の可能性
結論に入る前に、世界のキュレーションメディア(ニュース系)の市場状況を簡単に抑えておく。
【世界の国別のニュースキュレーションメディアの流入のしかた】
人々はどのようにして対象メディアに流入しているのか。アメリカでは検索が40%、直接が36%、SNSが35%、メールが25%、通知が13%の順になっている(複数回答での結果)。特にアメリカではこの1年で「通知」が倍増(6%~13%と数字はわずかだが)しているのが意外な結果となった。
オンラインニュースに対する課金状況については、アメリカでは11%、イギリスでは6%、日本は10%がオンラインニュースにお金を払っている。各国の現状を踏まえても、オンラインニュースへの課金は毎月10ドルが相場である。
さらに課金の種類別(継続的もしくは一回限り)についても、月額課金などの継続的な課金が60〜70%、一回限りが30〜40%というデータである。フランスやスペイン、イタリアなどはどちらも50%前後で推移している。例えばオランダの「Blendle」は記事ごとに課金するタイプのプラットフォームが普及しており、ペイウォール以外の可能性が考えられる。
ちなみに、アメリカのニュースサイトではペイウォールを導入するメディアが、昨年時点で500以上ともいわれている(Nieman Lab)。しかし、どんな価格でも課金をしない層はアメリカで67%、各国6〜7割を占めているため課金に対する抵抗の払拭は難しいのが現状である。
紙の新聞についても述べておく。紙は日本がトップで61%、アメリカは35%となっている。世界を見ればBuzzFeedやUpworthy、Newthisをはじめ、多くの新興メディアが動画に注力し、テレビや新聞を観て過ごす時間が減っている。そんな中、日本の「紙」はいまだに根強い。
日本が世界の国々とは少し違う市場であることは、上図の日本のデータ(赤枠)を見れば分かる。日本の特徴は…
①検索からの流入が多い
②SNSからの流入の割合が世界で一番少ない
③キュレーションアプリからの流入の割合が世界で一番多い
である。この市場状況がNowthisの戦略にマッチするかを考えてみると…
②は「そもそもSNSでニュースを消費していない」パターンと、BuzzFeed の事例のような「SNSで完結し、自社サイトへ流入していない」パターンの2つが考えられる。実態が後者でかつ前者でなければNowthisの戦略は有効である。ただ①と③が問題である。
①はSEOが無駄になる分散型メディアであるのに対して、検索によるニュース消費の志向が高い。それならば自社サイトを持つ方が有効であると考えられる。
③はYahooニュース、SmartNews、Gunosy、LINEニュースといったキュレーションメディアが支持されている証拠ではあるが、Nowthisの戦略には合わない。なぜか?アプリが完全に分散型メディアの考え方と逆だからである。アプリをわざわざ入れて、そこでしか見れないアプリに来てもらうことは、自分がお客様のところへ出向くNowthisのスタンスとは違う。日本市場ではあまりそれを歓迎していないのかもしれない。
これら日本市場の特徴を踏まえて導き出される結論は、日本でのNowthisのようなビジネスモデルの成功は現時点では「難しい」と考えるべきである。ただ②の実態を検証する必要はある。結果次第では成功を期待できるからだ。そして何より、分散型メディアは日本には存在していないため、認知そのものがない。認知によって日本でも受け入れられる可能性はあるかもしれない。また、マネタイズに関して「データ販売モデル」は、コンテンツ毎の流行りや、売り方をマーケティングデータを活かして戦略提案をする、言わば「コンサルティング収入」である。これからSNSがますますインフラとなり、スマホシフトと動画が当たり前になる時代においてこれを提供できることは、お客様に対しての付加価値になるであろう。
オプティマイザーでの応用
分散型メディアは運用コストがこれまで以上に安いことは大きなメリットである。何より日本ではまだどこも提供していないという点では先駆者になれる。ただ、デメリットの面も多い。動画広告であることが大前提で、各SNSごと・カテゴリーごとに部門を編成するのであれば、それなりの人数が必要である。
また、世界を見てもニュースキュレーションメディアは、スマートフォンのなかで消費されることがまだまだ増えるであろう。(下図参照)もちろん、広告宣伝費もテレビからスマホへシフトしていく。
【スマートフォンでのニュース消費の推移2012-2015】
また、ニュースキュレーションの取得を目的として、SNSを使う割合のトップはFacebook。ニュース取得のために利用する人が41%、WhatsAppの9%を加えると50%になる。YouTubeの18%、Twitterの11%を大きく離している。(下図参照)
【ニュースを消費するときに使うSNSの振り分け】
ニュースを見るモチベーションについては、「世界でなにが起きているか知りたい(84%)」がトップ、意外にも「ひまつぶし(31%)」という回答は最下位である。このように世界の動向は「SNSにおけるスマホでのニュース消費」であることがわかる。
マネタイズにおける「データ販売モデル」については、オプティマイザーで応用できる。SNSに対してはシェアの最適化、広告主に対してはSNSプロモーション、相互に提案するポジションは今のAFネットワークで培ったマーケティング戦略提供に近い。分散型メディアによって、インターネットインフラの戦略提案が可能となる。
次回への取り組み
今回Nowthisの存在を知り、まだ模索中ではあるものの新たなマネタイズモデルの存在を知ることができた。ただ本当に日本で成功するかは十分に落とし込めていない。次回は分散型メディアが成立する上で必要な「流入のしかた」と「シェアの構造」を日本のキュレーションメディア数サイトを対象に分析する。
出典
書籍:キュレーション スティーブン・ローゼンバウム 著 野田牧人 訳 発行所:プレジデント社 (2011年12月)
DIGIDAY「ニュースアプリ、週1でも利用する人は「たった3分の1」。 ロイター調査が示す、ニュース消費の現状」
netratings「ニュース・キュレーションアプリ TOP3は年初からの利用者が2倍以上に増加」
DIGIDAY「「BuzzFeed」を成功に導いた経営戦略。多士済々が集結する、その歴史のすべて」
GinzaMetrics「バイラルメディア「Upworthy(アップワーシー)」に学ぶ、バイラルさせるために大切な5つのこと
ZOWEB「Buzzfeedの先をいくメディア?「Nowthis」がとる WEBサイトを持たない分散型コンテンツ戦略とそのビジネスモデルとは?」
この連載のバックナンバー
第1回:キュレーションサイトの分析と成長の可能性に関する研究
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